「夜寝るときに入れ歯を入れたまま寝た方が良いか、外して寝た方が良いか」という質問をいただくことがあります。今日はそのことについてお話しします。
以前は、どんな入れ歯でも「寝るときは外してくださいね。」とお話ししていました。なぜならば、長時間入れ歯を入れていると歯肉粘膜が痛むため、歯肉粘膜を休ませるという意味で寝る前には入れ歯を外して、水につけて置いてくださいと説明していました。しかし最近では、場合によっては就寝時に入れ歯を入れることをおすすめしています。
では、どういう場合に入れ歯を入れて寝た方が良いのでしょうか。
残存歯があり、入れ歯が違和感なく合っている場合
残存歯があり入れ歯がぴったりと合っていて何の違和感もない場合に入れ歯を外して寝ると、寝ている間に残存歯が移動して入れ歯が合わなくなることがあります。先日、「かかりつけの歯医者さんで入れ歯を作ってもらったばかりなのに、急に合わなくなりました。」という患者さんがいらっしゃいました。入れ歯を外して寝ていたため残存歯が動き、合わなくなってしまったことが原因でした。入れ歯を入れて寝ることによって残存歯の移動を防ぐことができます。特にブラキシズム(歯ぎしり)などがある方は残存歯に負担が加わり、歯が移動することがあるので要注意です。このような場合は入れ歯を入れたまま寝ることをおすすめしています。
総入れ歯の場合
総入れ歯の場合、外して寝ていると口元の高さ(咬合高径)を一定に保つことができず、場合によっては顎関節症などを起こすことがあります。総入れ歯の場合は入れ歯を入れたまま寝て頂きたいです。
上記に該当する場合は、入れ歯を入れて寝ることをおすすめしています。ただし、これには条件があります。
・ぴったりと入れ歯が合っていること
・入れ歯の手入れが適切にできていること
・口腔内の清掃状態が十分にできていること
この三点をしっかり守っていただくことが大切になってきます。入れ歯が合っていないのに入れて寝ると、歯槽粘膜が痛んでしまいます。入れ歯の手入れや口腔内(残存歯)の清掃状態が不十分な場合は不潔域の部分が多く口内炎(カンジダ症)になってしまいますので注意が必要です。
次に、入れ歯を入れて寝ることのメリット・デメリットについてお話しします。
入れ歯を入れて寝るメリット
・咬合状態がいつも通り維持されるので歯の移動がなく、入れ歯が長く使える
・口呼吸を防ぐ
ここ近年では、誤嚥性肺炎にかかる人が増加傾向にあります。入れ歯を外して寝ると口呼吸が増え、口の中の細菌で汚れた唾液が気管へ行ってしまい誤嚥性肺炎を起こす危険があります。鼻呼吸をすることで、誤嚥性肺炎の予防に繋がります。
入れ歯を入れて寝るデメリット
入れ歯を入れて寝ると、目に見えない細菌が増殖して口の中で炎症を起こす可能性があります。部分入れ歯のような小さい入れ歯の場合は、入れ歯を入れたまま寝ると誤飲してしまう危険性があります。1本だけの部分入れ歯などの場合は外して寝た方が良いです。
以上のことを参考にしていただいて、入れ歯をつけて寝た方が良いかどうか判断していただけたらと思います。日本では入れ歯を外して寝る方が76%、ドイツでは入れ歯をつけて寝る方が63%というアンケート調査の結果が出ています。しかし、だからといって一概に入れ歯を外して寝た方が良いという訳ではありません。個々の口の中の状態によってベストの状態というのは変わってきますので、一度かかりつけに相談されてみてください。
入れ歯について何か気になることがあればいつでもご相談ください。