虫歯や歯周病が進行して、痛みが生じたため根管治療をした経験がある方もおられると思います。根管治療をした後は、痛みが軽減されることが多いのですが、たまに痛みが中々取れなく、場合によっては食事ができないほどの激痛を感じて苦しむ方もいらっしゃいます。そのような時、とても不安になるのではないでしょうか。
本日は、『根管治療後の痛みの原因と対処法』についてお話します。
目次
根管治療後に痛みが取れない原因
治療後の炎症
根管治療は虫歯や外傷などで歯髄が炎症や感染を起こした場合に歯髄を完全に除去して、根管内をきれいに消毒する処置です。しかし、根管内の洗浄が不十分で感染した歯髄が一部残っている場合は痛みが治まらないことが多いです。
【対処法】
エンドメーターで根管長を測定し、機械的に根尖部付近の歯髄をしっかりと除去する必要があります。歯髄を完全に除去した後は、根管内の清掃、消毒をしっかり行わなければなりません。
根尖病変による炎症
根尖病巣(図1)のような場合、感染した歯髄を除去しても痛みが治まらないことがあります。なぜなら、通常通り根管治療を行っても、根尖病巣を完全に除去することが困難な場合があるからです。その為、根尖病巣付近の歯肉が腫れてしまうことがあります。
【対処法】
根尖病巣が小さいケースでは、感染根管治療を何回か繰り返すことによって治すことができます。しかし、病巣が大きい場合は外科的処置が必要となります。根管治療においての外科的処置とは、歯根端切除術です。歯根端切除術は何度か根管治療を試みて、治らないケースで行います。感染根管治療や、歯根端切除術を行っても、予後不良のケースは抜歯になる可能性があります。根尖病巣がある場合は、パノラマレントゲン写真、CTを撮影し、根尖病巣の位置、大きさをしっかりと確認して、治療計画を立てていくようにしています。
【歯根端切除術とは】
歯茎を切開し、骨を削合して、歯の根の端を1~2mm切除して根尖病巣を取り除く外科的処置です。成功率は60%くらいですので、普通の根管治療に比べると成功率は、低くなります。また、根管治療と併用して、歯茎を切開して、外側から膿を出して治すこともあります。そのようなケースでは、抗生剤、鎮痛剤を必ず服用していただくようにしています。
歯の破折や亀裂が生じたことによる痛み
根管治療中や治療後に歯が破折したり亀裂が生じた場合、痛みが続くことがあります。また、虫歯がかなり進行して、C₃~C₄状態の場合、虫歯を除去していくうちに、髄床底に穴が空いてしまう場合があります。このような場合は、穴が空いた部分から感染して痛みが続く場合があります。歯が破折している場合は、破折した部分から感染して炎症が起きます。この場合、根管治療をしても痛みは治まりません。
【対処法】
まずは髄床底の穴をふさぐ必要があります。当院では、穴をふさぐための材料として《MTAセメント》を使用しています。MTAセメントは封鎮性がよく、殺菌性もあるためこのような場合に用いることはベストな材料です。穴が大きい場合や、根管が破折している場合は抜歯になる可能性があります。
根管内に薬剤を詰めた時に圧力がかかったための痛み(根充後)
【対処法】
根管内をきれいに消毒した後、根管内に薬剤を詰めていきます。(根充)
このときに、緊密に薬剤を詰めるためこの圧力が原因で根管治療後痛みが出ることがあります。ただ、ほとんどの場合2~3日で痛みが消失します。2週間以上痛みが続く場合は、根管内に詰めた薬剤を除去して、再根管治療をしなければなりません。
歯根膜炎による痛み
根管治療後に食べ物を噛むと痛みが生じることがあります。これは多くの場合、歯根膜炎が原因と考えられます。根管治療中に使用する器具や消毒液が歯根膜に刺激を与えることが原因と考えられます。特に根管の先端付近まで器具が到達したときに過度な刺激を歯根膜に与えると、歯根膜炎になるリスクが高まります。
【対処法】
根管治療中は丁寧にかつ慎重に治療をしなければなりません。特に器具を根尖付近まで入れる際にはゆっくりとできるだけ歯根膜に刺激を与えないようにします。根管治療中の歯に対しては、咬み合わせを調整し、強く咬合しないように心掛けています。器具は根管内の感染源を完全に除去するために、根尖付近まで到達させなければなりません。その為多少の刺激は与えてしまうことになります。当院では歯根膜に対しての刺激をできるだけ軽減させ、咬み合わせを調整しています。
根管治療の手順
根管治療後の感染
根管治療が終わってホッとしていたら、また痛み出した方はいらっしゃいますか。当院でも稀にそのような患者様がいらっしゃいます。これは、再感染が原因と考えられます。一度根管治療が完了しても、口の中の衛生状態が不良な場合は再感染を起こすことがあります。特に基礎疾患がある人は免疫力が低下する方が多いので、再感染するリスクが高くなります。
【対処法】
●口腔ケア 口腔ケアをしっかりと行い、口腔内の衛生状態を良好にすることです。正しいブラッシングを行い、健康的な食生活をする必要があります。バランスの良い食事、十分な睡眠、適度な運動を行い、ストレスを解消することで、身体の免疫力を向上させることが重要です。
●根管治療後に激痛が起こった場合 通常根管治療後の痛みは3~4日間程で痛みが軽減していきますが、1週間以上経っても強い痛みがある場合は、すぐにかかりつけの歯医者に相談することをお勧めします。そして痛みの原因は何かを解明し、適切な治療をしなければなりません。また応急処置として適切な薬物療法を行うことも大切です。抗生剤と鎮痛剤を服用していただき、炎症を抑制し、痛みを軽減することを行います。
根管治療後の予防
適切な口腔ケア
根管治療後も適切な口腔ケアをしていくことは重要です。口腔内の衛生状態が良好でなければ再感染を起こすリスクが高まります。正しいブラッシングを欠かさずに行いましょう。
正しい食生活
バランスの取れた食事、しっかりした睡眠、適度に体を動かすようにしてストレス解消に努めてください。そうすることで、ストレスが解消され、体の免疫力が向上します。
まとめ
根管治療を行った歯(失活歯)は生活歯に比べて、再感染するリスクが高くなります。また、根管治療が終わって痛みがなくなっても、何年か経ってから痛みが出ることがあります。原因として虫歯の再発、歯周病から波及した歯の根っこの感染が原因の可能性があります。その場合は早めに歯医者を受診してください。根管治療を行った場合は特に、口腔ケアを大切に心掛けてください。そして、3~4ヶ月に一度、定期検診を受けてください。これが健康な口腔内を維持するために大切なことだと考えています。
何か気になることがあればお気軽にご相談ください。