
近年、日本の平均寿命は延びています。少し前は「人生80年」と言われていましたが、最近では「人生100年」などと言われています。歯の健康と全身の健康は、密接な関係があり、特に高齢者においては、歯の健康は全身の健康に大きな役割を果たしています。
目次
歯の健康と全身の健康の関係

歯の健康は、実は全身の健康に大きく関わっています。多くの人は、食べる時、会話をする時、笑顔に自信が持るという意味で、歯の健康が大切だと考えている人が多いのではないでしょうか。歯の健康を維持する目的はそれだけではありません。
では、歯の健康を損ねると全身の健康にどう影響するのでしょうか。
歯周病
歯周病は、みなさんがご存じの通り、歯の周りの歯周組織に炎症が起こり、歯を支えている歯槽骨が吸収して進行すると、歯がグラグラと動揺して、場合によっては、歯を失うことがある疾患です。
この歯周病が進行すると、口の中の炎症物質が、血管を通して、さまざまな疾患を起こすリスクが高まります。代表的な疾患は糖尿病が上げられます。
特に糖尿病は、歯周病と密接な関係があります。
歯周病になると、口の中の炎症を起こす原因菌が血管によって全身に行き、体の中で血糖値を下げるインスリンの効果を効きにくくします。その為、歯周病が進行すると糖尿病になるリスクが高くなります。逆に、糖尿病の患者さんに、歯周病の治療を行って、患者さん自身がしっかり日々のブラッシングを行い、プラークコントロールをしっかり行うことにより、血糖コントロールが改善し、糖尿病患者の治療に役立っているということも言われています。
その他にも、歯周病が進行すると、心疾患、脳梗塞のリスクが高まるので、歯周病は全身の健康に大きな影響を与えています。
高齢者における歯の健康の大切さ
歯の健康は、全世代においてもとても重要なことです。特に当院では、高齢者の歯の健康に注意を払っています。どうしてかといいますと、歯の健康は年齢とともに、自然と悪化しやすくなります。
悪化しやすくなる理由として、まず唾液の分泌量の減少が挙げられます。唾液は口腔内を清潔にすることを維持し、虫歯や歯周病の予防に大きく貢献しています。そのため、唾液の分泌が低下すると虫歯や歯周病のリスクが高くなってきます。また高齢者になると、手先の器用さが低下するという問題点があります。そのため、正しいブラッシングが上手にできなくなり、口の中のプラークが完全に除去できずに残ってしまって、虫歯や歯周病になってしまうことが多くあります。
咀嚼機能の低下
虫歯や歯周病が低下すると、咀嚼機能が低下してきます。特に歯を失ってしまうと大きなダメージを与えてしまいます。咀嚼機能の低下はただ単に食事が上手にできない、硬いものが食べられないという問題だけではありません。
咀嚼機能が低下することで認知症のリスクも高まります。人間は咀嚼することで脳が活性化されるため、咀嚼機能はとても大切な要素です。
そういう意味で歯を失うことは、できるだけ避けなけらばなりません。
全身の健康を維持するための取り組み
高齢者における口腔ケアの取り組み
高齢者においてはいろいろな原因で、歯の健康状態が悪化しやすくなります。そのため当院では、特に高齢者に対しての口腔ケアに力を入れています。
高齢者になると唾液の分泌量が減少してくる傾向があります。当院では高齢者には水分をこまめに摂取することや、食事をするときはよく噛んで食べることをお勧めしています。そして、唾液の分泌量の促進ができるようにしています。
適切なブラッシング指導

高齢者の方は手先の器用さが低下することがあります。もちろん、適切なブラッシング指導も行いますが、中には困難な人もいます。
当院ではこのような場合、電動歯ブラシをお勧めすることがあります。電動歯ブラシをお勧めする際も、できるだけわかりやすく丁寧に説明することを心掛けています。
入れ歯を使用している場合は毎日入れ歯専用ハブラシで清掃していただくようにしています。できるだけお口の中を清潔にすることに努めています。
歯周病の予防
高齢者に多く起こる疾患が歯周病です。
歯周病は軽度な場合はあまり自覚症状が出ないことが多いです。これにより、気づかないことが多く、気づいた時にはかなり進行しているケースが多いです。
なので、定期的な歯科検診をお勧めしています。定期検診の間隔は、3~4ヶ月ぐらいです。ただ、歯周病の進行の度合いによっては、それよりも短い間隔になることがあります。
定期検診においては、高齢者に限らず、全世代の方にお勧めしています。高齢者の中には歩行困難などで歯科医院に通院できないこともあります。そのような高齢者の方には、介護施設や在宅医療と連携し、訪問歯科治療を行うようにしています。通院が困難な方にも、できるだけ適切な口腔ケア及び、歯科治療を行っています。
予防歯科の重要性

歯の健康を長く維持するため、予防歯科はとても重要な役割を果たしています。
最近では、健康寿命が伸びてきているということも、耳にすることがあります。この健康寿命は歯の健康が大きく関わっていることは言うまでもありません。
予防歯科は日々行っている歯磨き、食生活の指導、定期健診などが含まれます。正しいブラッシングをしっかりと行い、食生活においてはバランスの取れた食事を摂取することが重要です。
砂糖が多く含まれている食物の過剰摂取は虫歯の原因となりますので気を付けましょう。定期健診を受けることで、虫歯や歯周病の早期発見、早期治療が可能になります。症状が強く出ているケースは多くの場合、病気がかなり進行している可能性がありますので注意が必要です。
歯の健康と学校での歯科教育

最近は、歯の大切さの概念が少しずつ浸透してきています。
幼稚園、保育園、小学校、中学校、高校で歯科検診を受けていらっしゃると思います。また、幼稚園、保育園や学校での歯科教育も少しずつ行われているように思います。
当院でも毎年10月に幼稚園に行って、年長さんと保護者の方を対象に6歳臼歯の大切さ、歯磨きの仕方など指導しています。お子さんの場合は、1人でしっかりと歯磨きを行うことが難しかもしれません。そのため当院では9歳頃までは保護者の方に仕上げ磨きをお勧めしています。
小さい頃から歯の大切さを教育し、自ら歯磨きを実践する習慣を身に着けることはとても重要です。ぜひ歯磨き習慣を身に着けてほしいと思います。
まとめ

歯の健康は、全身の健康を維持するために重要な役割を果たしています。そのことにより、歯科の役割も重要なことが段々分かってきたように思います。
特に高齢者においてはその役割は大きいです。また全世代においても、予防歯科はとても重要で、実際、日常生活に予防歯科を取り入れることで歯の健康だけでなく、全身の健康も維持することができると思います。
そして歯科治療は、一般的な虫歯、歯周病だけでなく、介護施設の連携や、幼稚園、学校における歯科治療教育なども大切です。当院では予防を含めて歯科治療をしっかりと行い、患者様1人1人に適切な歯科医療を提供していきたいと思っています。
私たちは歯の健康を維持していくことで、全身の健康状態を維持し、さらに健康寿命を伸ばしていき、いつまでも楽しい人生を送っていただきたいと思っています。