こんにちは。
鳥取市東町で開業しております、山根歯科医院です。
ここ数カ月の間に
【更年期になってから、口の中に変化が出てきた】
という方が、複数受診されました。
本日は、女性モルモンと口腔内の変化についてお伝えしたいと思います。
はじめに、女性ホルモンについて解説しましょう。
女性ホルモンとは
女性ホルモンには、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があります。
【エストロゲン(卵胞ホルモン)の働き】
- 子宮内膜を増殖させて妊娠の準備を整える
- 乳房の発育を促す
- 肌のつややハリを保つ
- 骨量の維持に重要な役割を果たす
- 血管や骨などを健康な状態に保つ
- コラーゲンの生成を促進する
- 脳や自律神経にも働きかけるため、体だけでなく精神の安定にも影響する
【エストロゲンの種類】
- エストロン(E1)
- 卵巣や副腎、肝臓、脂肪組織で作られる
- 閉経後は卵巣でエストラジオール(E2)に変換される
- 閉経後は、この成分が主要なエストロゲンになる
- 体脂肪率の上昇などでエストロンが増えすぎると乳腺や子宮の組織を刺激し、乳がんや子宮がんのリスクが高くなるといわれている
- エストラジオール(E2)
- 閉経前に卵巣で作られる主要なエストロゲンのこと
- エストロゲンとしての効果が最も高く、閉経後は減少する
- エストリオール(E3)
- 上記の2つの成分を肝臓で変換し作られる
- 乳腺や子宮に対する刺激が弱いため、乳がんや子宮がんを誘発せず、逆にこれらのガンから体を守る働きがある

【エストロゲンの分泌による変化】
- 思春期になると分泌が急激に高まり初経を迎える
- 月経が順調に来るようになると月経周期に伴って毎月変化を繰り返す
- 20代でピークを迎え、その状態がしばらく続き、更年期になると徐々に分泌量が低下する
- 閉経を迎えると、分泌量が急激に低下し、欠乏状態になる
【エストロゲンの増加による症状】
- 生理が重くなる
- 脂肪を蓄えやすくなり肥満に繋がる
- 偏頭痛、無排卵、不安感、疲労感などを訴える
- 子宮内膜が厚くなりすぎる、子宮筋腫、子宮内膜症、乳腺症などのリスクが高まる
【エストロゲンの分泌量減少による変化】
- 肌のハリやうるおいが失われやすくなる
- 骨粗鬆症のリスクを高めることがある
- 脂質異常症のリスクが増加する
- さまざまな症状・障害や病気が発症することがある
【プロゲステロン(黄体ホルモン)の働き】
- 排卵後から生理までの期間に活発に分泌される
- 子宮内膜を柔らかくし、受精卵が着床しやすい状態にする
- 基礎体温を上げる
- 乳腺を発達させる
- 水分や栄養素をため込み、妊娠が成立したら妊娠を維持する
【プロゲステロンの増加による症状】
- 食欲増加、疲労感、眠気、むくみ
- 気分の落ち込み、イライラ
- 肩こり、腰痛、 肌荒れ
【プロゲステロンの分泌による変化】
- 月経周期やライフステージによって分泌量が変動する
- 妊娠が成立しなければ、排卵の1週間後くらいからプロゲステロンは減り始める
【プロゲステロンの減少による変化】
- 月経不順や無月経
- 不正出血
- 体重増加、便秘
- 冷え、疲労感
- 気分の落ち込み、抑うつ、集中力の低下
- 髪が、肌、爪が薄くなる
【女性ホルモンの分泌量と時期(年齢)】
- 思春期(8~18歳)
エストロゲンの分泌が徐々に増えて、初潮を迎えます
- 成熟期(18~45歳)
エストロゲンの分泌が安定し、女性としての身体が機能します
- 更年期(45~55歳)
エストロゲンの分泌が急激に減少し、閉経を迎えます
- 老年期(55歳~)
エストロゲンの分泌がわずかとなり、生活習慣病のリスクが高まります

【更年期起こる一般的な症状】
- 【身体的症状】
- ほてり、のぼせ、発汗(ホットフラッシュ)
- 動悸、息切れ、頭痛、めまい
- 肩こり、腰痛、関節痛、筋肉痛
- 手足の冷え
- 皮膚や粘膜の乾燥、湿疹、ドライアイ
- ドライマウス、唾液分泌異常
- 便秘・下痢、吐き気、食欲不振、腹痛
- 骨粗しょう症
- 【精神的症状】
- イライラ、怒りっぽい
- 抑うつ気分、不眠、涙もろくなる
- 意欲低下、不安感
- 憂うつ感、判断力/集中低下
- 倦怠感
- 【泌尿生殖器症状】
- 性交障害、頻尿、排尿障害
- 月経異常、外陰部違和感
主な症状の中にドライマウス、唾液分泌異常が含まれていますね。
唾液のメカニズムや特徴などについて、詳しくお話ししましょう
唾液について
【唾液とは】
唾液は唾液腺(だえきせん)という組織で作られる

【唾液腺の種類と場所】
<唾液腺の種類>
- 大唾液腺
- 耳下腺(じかせん):耳の前下方にある
- 顎下腺(がっかせん):顎(あご)の下にある
- 舌下腺(ぜっかせん):口の底にある
- 小唾液腺
- 口唇腺(こうしんせん)
- 頬腺(きょうせん)
- 口蓋腺(こうがいせん)
- 前舌腺(ぜんぜっせん)
- 後舌腺(こうぜっせん)
- エブネル腺など
<唾液性状>
- さらさら唾液:耳下腺、エネブル腺
- ねばねば唾液:舌下腺、口蓋腺、後舌腺
- 混合唾液:顎下腺 口唇腺、頬腺、前舌腺
【唾液の量】
1日あたり1~1.5リットル分泌される
(内訳)
- 顎下腺からが約65%
- 耳下腺 20%
- 舌下腺 10%
- 小唾液腺 5%
【日常生活での分泌の変化】
- 安静時唾液
- 安静時や睡眠時に分泌される唾液
- 分泌量は1分間に0.1~0.3mL必要とされる
- 刺激(反射)唾液
- 食事時や会話時などには多くなる
- 耳下腺唾液が多くなる
【唾液の役割】
- 口腔粘膜や歯を湿潤させ、保護する
- 会話や食事などの機能性を高める
- 食物に水分を与え、咀嚼しやすいようにする
- 食塊形成(飲み込みやすい塊を作ること)を容易にし、嚥下しやすくする
- 食物の栄養素の吸収や味覚に関与する
- 口腔内の清掃や抗菌物質で健康を守る
- 入れ歯の安定に役立つ
唾液腺は女性ホルモンの影響を受けやすく、
唾液分泌低下がどのような症状を引き起こすのか詳しく見ていきましょう。
女性ホルモンの分泌低下に伴うドライマウス
【ドライマウス(口腔乾燥症)とは】
唾液の分泌量が減少し口腔内が乾燥し、この状態が持続している状況
【女性ホルモン分泌低下以外の原因】
- 中枢や末梢神経障害
- 糖尿病、腎臓疾患、
- 膠原病(シェーングレーン症候群)
- 服薬している薬の影響
- 精神的ストレス
- 筋力低下、加齢
- 口で呼吸をしている
【口の中が乾いたと感じる唾液の分泌量】
(測定方法)
- 安静時唾液(じっとリラックスした状態で分泌される唾液)
- リラックスした状態を15分間保ち、口の中にたまった唾液を容器に吐き出す方法
- 正常値は1.5mL以上となる
- 刺激唾液(あごや舌の運動時に分泌される唾液)
【ガムテスト】
- 10分間ガムを嚙み、分泌された唾液を容器に吐き出す方法
- 正常値は10mL(10cc)以上
【サクソンテスト】
- 2分間ガーゼを咬み、ガーゼに浸み込んだ唾液の重さを計測する方法
- 正常値は2g以上
【ドライマウスの主な自覚症状】
- 口が乾く、ねばつく、口臭が気になる
- 唾液が溜まっている
- 水をよく飲む
- 話しづらい、食事しづらい
- 味覚に変化があり、おいしく感じなくなった
- 舌が痛い、色や形がおかしい
- 寝ていると口がからからになる
- 入れ歯が合わなくなり、口の中が傷つきやすい
- 唇や頬の粘膜を噛みやすくなった
【誘発されるトラブル】
- 口内炎、舌痛症
- 味覚障害
- 口臭がひどくなる
- 歯がすり減る、もろくなる、ひびが入る
- 歯周病菌や虫歯菌に侵され歯を失うリスクが高まる
- 咀嚼や嚥下障害を起こしやすくなる
- 義歯の安定感が悪くなる
- 誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高まる
【対策】
- ブラッシングやフロスなどを利用し、セルフケアを徹底する
- 義歯を清潔保つよう、きれいに洗浄する
- 定期的な歯科検診、クリーニング、義歯調整を行う
- ホルモン補充療法や漢方療法(婦人科医による検討)を用いる
- 服薬している薬の内容の見直し(内科医、薬剤師による検討)を行う
- 栄養バランスを保つための食生活改善を試みる
- 精神面を健康に保つ(心理学的行動療法など)
- 唾液腺マッサージを行い、分泌刺激を促す など

いかがでしたか。
今回は更年期にまつわる変化を取り上げましたが、
ホルモンバランスは、口腔内にも少なからず影響があることがお判りいただけたかと思います。
口腔内の変化が思わぬ病気の発見につながることもありますので、
気になる症状があるなど、お困りの際は、歯科医院に限らず、医療機関を受診するようにしましょう。
当院は、痛みに配慮した優しい治療を心がけて診療を行っています。むし歯・歯周病治療だけでなく、矯正治療や小児歯科、インプラント治療など、幅広い診療に力を入れています。